怪獣万歳!

muho2’s diary

小説を書いて暮らしている大倉崇裕です。怪獣が3度の飯より好きです。政治的な発言は控えていましたが、保険証廃止の動きで頭が沸騰し、しばらく叫き続けていきます。自分自身大病もしたし、12年間親の介護もしました。その経験からも、保険証は廃止しちゃダメ。絶対!

長坂秀佳と逮捕志願!

  • 特捜最前線第260話「逮捕志願!」 (脚本・長坂秀佳 監督・藤井邦夫)を見て、あまりの面白さにふらふらとなる。

聞きこみの途中、叶刑事は墓前でハーモニカをふく老人を目撃。数日後、叶は老人と再会。叶が刑事だと知った老人は15年前の殺人事件についての告白を始める。老人の名は佐々垣修吉。15年前、一人息子の良一を刺殺したと自白する。だが、その事件については、すでに犯人が逮捕されていた。
良一の死体が発見されたのは、昭和42年5月12日。死因は刺殺。背後からのひと突きであった。当時、付近では連続四件の通り魔事件が起きていた。所轄警察は良一の事件も通り魔の一つと判断。後日、通り魔の犯人は逮捕され、良一殺しについても自白をしていた。
自棄になった犯人が、やっていない一件について自白する可能性はある。神代は叶に事件の再調査を許可する。だが、通り魔事件の犯人は10年前、獄中で病死。真実を証言する者は誰もいない。
そもそも佐々垣は、なぜいまごろになって自白をする気になつたのか。諸々の疑問をぶつけるため、叶は佐々垣を訪ねる。
佐々垣が15年待ったのは、妻の存在があったから。息子を愛していた妻には真実を隠しておきたかった。その妻が死亡。佐々垣は告白する気になったのだ。
つづいて動機。良一はシャブ中。家族への暴力もひどかった。思いあまった佐々垣は、薬屋からの帰宅途中、良一を刺殺した……。
佐々垣は毎晩、息子殺しの悪夢にうなされている。救いを求め自首をしたものの、事件は既に解決済み。しかも、あと六日で時効を迎える。
このまま時効を迎えたら、佐々垣は自ら命を立つに違いない。叶は懸命に「有罪」の証拠を探す。
15年前のあの日、佐々垣が現場にいたという確かな証拠。叶は佐々垣を現場に連れ出し、検証を開始する。
1 佐々垣は良一を待ち伏せる際、トラックの陰に隠れていたと証言。トラックの停車は当時、警察は発表していなかった。→週刊誌の特集記事にトラックの記述が。
2 包丁は自宅から持ちだしたのではなく、店で買った。→伝票などの証拠なし。
3 犯行後、佐々垣は息子の自転車で逃亡、河原で体を洗い、ジャンパー、凶器を河原に埋めた。→犯行時直後にブルドーザーで整地。凶器は残っていない。
4 良一を刺し、路上に倒れこんだ際、夜空に「上弦の月」を見た。→当夜は満月。月の位置も真逆であり、佐々垣が月を見られたはずはない。

ことごとく退けられる物証。時効まであと1日。叶は証拠を掴むことができるのか。

  • これはもう、単純に、ただ、ただ、面白いと評すことのできる作品。
  • 「無実」ではなく「自ら進んで有罪を申し出た犯人に対し、有罪の物証を見つけなければならない」というある意味「逆転」の発想。通常、「有罪」の証明には真犯人の抵抗が予測されるが、今回は真犯人が協力してくれる。にも関わらず、物証の発見ができない。同じ脚本を書くにしても、後者の方が100倍大変だったろう。
  • 証明は「状況」と「物証」の二段構え。物理的な「状況」証明は道具立てでわくわくするし、一方、15年の時を経て出現する「物証」には、ロマンを感じる。稚気を一歩進めたロマンを感じさせてくれる作品は数少ない。近年でずば抜けていたのは島田荘司であったのだが。長坂秀佳の脚本にはベクトルこそ違え、島田ミステリーと同じ香りを感じるのだ(時代的には長坂秀佳の方が先だけど)。
  • 佐々垣を演じたのは、一昨年の連続テレビ小説が印象的だった、織本順吉氏。拍手を!