怪獣万歳!

muho2’s diary

小説を書いて暮らしている大倉崇裕です。怪獣が3度の飯より好きです。政治的な発言は控えていましたが、保険証廃止の動きで頭が沸騰し、しばらく叫き続けていきます。自分自身大病もしたし、12年間親の介護もしました。その経験からも、保険証は廃止しちゃダメ。絶対!

長坂秀佳と津上刑事の遺言!

  • 特捜最前線BEST SELECTION BOX Vol.2 より、第351話「津上刑事の遺言!」(脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦)を見て、あまりの面白さにふらふらとなる。

 

特命課宛に、「殺してやる!」というハガキが舞いこんだ。同じような内容のハガキが、既に何枚も届いている。筆跡からみて、差出人は子供らしい。高杉婦警から報告を受けた神代は、宛名を見て愕然とする。そこには津上明と書かれていた。
津上明は四年前、昭和55年1月20日、28才で殉職した、元特命課刑事である。神代たちは、津上の遺族である妹を訪ねる。予想通り、ハガキはそこにも届いていた。悪戯とは思えない。神代は捜査を指示する。
神代は元特命課の高杉より情報を得て、ハガキの差出人を特定。少年は秋本忍といった。彼は四年前、交通事故で父親を亡くし、姉と二人住まい。脅迫まがいのハガキをだしたのは、津上が約束をやぶったからだという。
父親の命を奪った交通事故。その瞬間を忍は目撃していた。青信号で横断歩道を渡っていた父親を暴走してきた車がはねたのだ。しかし、警察の捜査では加害者側の証言ばかりが採用され、信号無視をしたのは父親の方とされた。津上は忍を信じ、父親の無実を証明することを約束してくれたという。だが、それはいまだ果たされていない。約束をした直後、津上は細菌爆弾事件で殉職していたためだ。
忍少年は、父親の形見となった腕時計を持っていた。それは、事故発生の時刻「2時13分18秒」をさして止まっていた。彼は事故以来のショックで横断歩道を渡れなくなっているという。
少年のため、津上のため、神代は特命課の総力をあげ、父親の無実を証明することを約束する。
刑事を退職した滝の協力(?)も得て、再現実験が行われる。加害者の証言では車の速度は時速60キロ。だが、停止位置、ブレーキ音など、条件に合うスピードは80キロ。加害者の証言に嘘がある? 船村は加害者であるコンピューター会社の重役大牟田の許へと向かう。
一方桜井は、調書に記された目撃者三人を当たるも、新たな証言は得られない。現場周辺を再度徹底的に洗い、12人の目撃者を見つけだすが、事故の瞬間を目撃した者はおらず、どちらの信号が赤だったのかは、証明できないままに終わる。
滝はかって津上が「一緒に渡っていたおばあちゃんがいた」と言っていたことを思いだす。だが、老婆の存在に気づいた者は誰もいない。
捜査が行き詰まりを見せる中、津上が残した捜査メモが。その中の記述、「有り!! 盲点 信号 老婆!!!」。記入されたのは、1980年1月12日。細菌爆弾事件捜査が始まる前日だった。
津上は老婆の存在に気づいていた。だが、真の意味は判らない。
さらに、妹トモ子が聞いた津上の言葉「信号前の薬局の女主人が見ていた」。だが信号前に薬局はない。津上の言いたかったことは何か。
四年という時間が壁となり、進まない捜査。容疑を否定しつづける加害者。津上の残した約束を、特命課は果たすことができるのか。

  • 人生を変えた一本である。私が生まれて初めて見た「特捜最前線」がこの作品。学校から帰り、たまたまつけたテレビで、たまたま再放送していたのが「特捜最前線 351話」だったのだ。よく判らないながらも物語に引きこまれ、翌日からほぼ毎日見るようになり、虜となった。「刑事ドラマ」「ミステリー」というもの意識するようになったのは、このときからだ。もしこのとき、たまたまテレビをつけなかったら、たとえつけたとしてもチャンネルを別なものに合わせていたら、別の番組を放送していたら(暴れん坊将軍とか)、このエピソードでなかったら……今の仕事にはついていなかったかもしれない。
  • そんなこんなで、25年ぶりの視聴となった「津上刑事の遺言」。あらためて傑作だと実感。いや、半端な傑作ではない。ほぼパーフェクトといっていいかもしれない。特に脚本。恐ろしいと思った。
  • 記念作品だからといって、大きな事件を扱うのではなく、交通事故というところがミソ。しかも、楽勝と思われた捜査が次々と壁に突き当たり、特命課の力をもってしてもまったく進まない。発見と失敗がこれでもかと繰り返される怒濤の展開である。後半の「ふろしき」にたどりつくころには、見ているこちらも刑事に同化していて、「あっ」とか「おっ」とか叫んだりしている。
  • 小道具の使い方も完璧。腕時計にしてもコンピューターにしても、すべて演出と連動していて、インパクトは絶大である。腕時計はねぇ、使われ方が予想できるんだけれど、やっぱり鳥肌たちます。
  • そして、キャラクター。全員に見せ場がある、というのは長坂脚本の真骨頂だが、今回はそれを意識的に拡大してやっているのだからすごい。特に、叶刑事の「自分だけが津上刑事を知らない」というセリフには思わず膝を打った。そして、最後の最後に活躍するのが叶である点も憎い演出である。
  • 高杉刑事役の西田敏行、滝刑事役の桜木健一がゲスト出演し、津上役荒木茂とともに、歴代刑事総出演となっているのは周知のこと。
  • ああ、25年を経て、ついに「津上刑事の遺言」が自分のものとなった。うれしいなぁ。