怪獣万歳!

muho2’s diary

小説を書いて暮らしている大倉崇裕です。怪獣が3度の飯より好きです。政治的な発言は控えていましたが、保険証廃止の動きで頭が沸騰し、しばらく叫き続けていきます。自分自身大病もしたし、12年間親の介護もしました。その経験からも、保険証は廃止しちゃダメ。絶対!

嫌われる勇気

  • 「嫌われる勇気」はアドラー心理学(実はよく知らない)について書かれた本を「原案」としてミステリーに仕立てた作品。とにかく、放送当初から主演女優の悪口に始まり、アドラー心理学の専門機関(?)から放送中止を求める要望書が提出されたりと、いい話題はほとんど何も聞かなかった。私自身は、これがミステリードラマであることを知らず、ある人に教えていただき見始めた。ということで1話を見逃しているので、何も偉そうなことは言えないのだけれど、ミステリードラマとして、刑事ドラマとして、充分に面白かった。もちろん100点満点とはいかないけれど、一話完結のそれぞれに仕掛けがあるし、最終回に向けての縦軸も上手く散りばめられ、黒幕の正体も、どこかの番組のような唐突さはなく、当初から伏線が張られていて、ミステリーとして攻めと保守のバランスが取れた佳作であると思う。主人公のキャラクターにしても、「感情移入できなくて好きになれなーい」と視聴者に言われることが判っていたのに、これで勝負するという潔さ。そういうところ、好きです。
  • ただ、やはり、なぜアドラーなのかという歪さは残る。主人公がアドラー心理学を実践していて、相棒の新人刑事がそれに影響を受け、詳しい教授に教えを乞う……というのは判るのだけれど、やはりどう考えても、事件との密着性が薄い。最後で動機の一側面としてアドラーが語られることはあるけれど、謎や解決はアドラーとは無縁のものであるし、この歪さは最後まで解消されなかったように思う。皮肉なことに、各話の謎と解決が上手くできているだけに、アドラー心理との乖離が目立ってしまった。(最終回前の暗号だって、せめてアドラーでいこうよ)
  • これはどうでもいい私見だけれど、アドラーと主人公の過去というしっかりとした縛り、縦軸があるならば、一話完結で語られる各事件にも、一定の縛りを持たせるべきだったのではないか。例えば「IQ246」では縦軸を活かし、ドラマとしてのキャラクターを明確にするため、毎回「倒叙」の形式を取った。「嫌われる勇気」ではそれとは逆に、殺人、誘拐、爆弾魔までバラエティ豊かに見せる方向を取ったのだろうが、やはりミステリードラマとしての核を欠いてしまったようにも思う。
  • 視聴率や主演役者云々で、ドラマをこき下ろす下衆な風潮はまったくもって許せない。「嫌われる勇気」はネガティブに語られる要素は一切ないし、綺麗に完結した立派なミステリードラマだ。今期の収穫と言える。これは言わなくてもいいことだけれど、大上段に振りかぶったネタをまったく昇華できていない「相棒」なんかより、ずっとポイントが高い。