- 特捜最前線
第36話 傷痕・夜明けに叫ぶ男(脚本・長坂秀佳 監督・松尾昭典)を見て、あまりの面白さにフラフラになる。(2026年Ver.)
代議士の伊勢原(ゆうすけ)が義父である間島(げんぞう)から拳銃による自決を迫られる。伊勢原がマリファナを使用していた事に対するケジメをつけさせるためだ。しかし伊勢原は抵抗。間島宅の玄関前で争ううちに、伊勢原は間島を射殺してしまう。その一部始終を目撃していた者がいたーー。
高杉が偶然出会った伊丹仙吉という老人。見た目は明らかなルンペンであるが、本人は会社社長の名刺を持つ。彼に父親の面影を見た高杉は自身のトレーニングウェアを進呈する高杉が刑事と知った伊丹は、その礼にと前夜、殺人事件を目撃したと告げる。だがほら吹き老人の戯言と高杉は相手にしない。
間島殺しは特命課の管轄に。間島は政治団体、暴力団との関係も深い。事と次第によっては政治問題化もしかねないためだ。
遺体発見時刻は5時20分。発見者は義理の息子伊勢原である。発見時の様子は新聞配達の少年が目撃していた。
伊丹が見たという殺人事件は間島殺しに違いない。高杉は慌てて伊丹を探すが、名刺の住所などはすべてデタラメ。伊丹の評判は芳しくなく、千の中に本当の事は三つしかない「センミツ」というあだ名まで奉られていた。
伊勢原が臭いと睨む特命課。だが間島の死亡推定時刻午後6時から10時の間。伊勢原には完璧なアリバイがあった。(5時から9時まで藤村派懇親会、9時から10時までは赤坂の料亭で会議、その後12時まで麹町の事務所で政務次官と打ち合わせ)
唯一人、伊丹を信じて彼を探す高杉。ようやく見つけた伊丹は、週刊誌に写る伊勢原を示し、彼こそが殺人犯と指摘する。だが鑑識の死亡時刻は揺るがず、伊勢原のアリバイは成立する。特命課に呼ばれた伊丹は8000円の飯を食べてそのまま姿を消すーー。
それでも伊丹を信じる高杉。桜井は伊丹、高杉を殺害現場に連れだし、現場検証を行う。それによると、伊丹の言う時刻、彼が立っていた場所からは水銀灯の光が邪魔で何も見えない事が判明する。つまり伊丹の証言は嘘なのだ。一方で、伊勢原の証言にも齟齬が。彼は門を入ってすぐに死体を見たと証言しているが、彼もまた、その場所からは死体を見る事ができなかったのだ。
またも姿を消した伊丹を探す高杉は、彼に平泉成という息子がいたと知る。親父と縁を切ったという平泉成は実に成っぽく冷たい。妻にも息子にも会わせるつもりもない。
その平泉成宅付近で伊丹と出会う高杉。高杉の懇願で、伊丹は「本当」の事を語る。彼は犯人に見つけられもみ合いに。その際、犯人の腕に噛みついたという。犯人の腕には、伊丹の歯形が残っているはずだ。動かぬ証拠を求め、高杉は一人、伊勢原のところに乗りこむ。だがその行動は特命課を窮地に追い込むことに……。
爆弾も誘拐もない、しかし、静かな大名作。西田敏行×小林昭二×加藤嘉×加藤嘉である。加藤嘉はあまりに加藤嘉なので二倍にしてある。加藤嘉を初めて認識したのは、「獅子の時代」の菅原文太の父親からであるが、あの「なじょする!」以来、加藤嘉を愛している。

嘘つき加藤嘉の嘘のつき具合が常軌を逸していて、長坂秀佳の妄執を感じる。普通なら、そろそろ本当の事を言わせちゃうところで、加藤嘉はまだ嘘をつく。これほど高杉が親身になっているのに、嘘を重ねるのである。この精神の強靱さには恐れ入るしかない。ここまで、脚本上とはいえ、人は鬼になれるのか!
そして、何と言っても、船村による隣の住人への聞きこみである。これは見た者だけが知る、ミステリーの喜び。水銀灯もすごいけれど、ここに落ちてくるとは、もう言葉もない。
まるで現代の自民党を表すかのようなクズ代議士、伊勢原を演じるのは小林昭二。「東京殺人ゲーム地図」の前にもこんな魅力的なワルを演じていたのだ。今回はいきなり、桜井が聞きこみに訪問。本郷猛と立花藤兵衛の対決が見られるという、一部ファンにとってのみ垂涎のシーンあり。
加藤嘉は冒頭で貰ったオレンジのジャージを最後まで着続けている。それがもう涙である。
そして、平泉成は最後まで平泉成として去って行く。そのクールなところがまた、長坂脚本の魅力。ふつう、手帳見て泣くんだよね。そして悔い改める。でもそれは一切ない。そこに平泉成なんだから、余計にクールでいい。
