怪獣万歳!

muho2’s diary

小説を書いて暮らしている大倉崇裕です。怪獣が3度の飯より好きです。政治的な発言は控えていましたが、保険証廃止の動きで頭が沸騰し、しばらく叫き続けていきます。自分自身大病もしたし、12年間親の介護もしました。その経験からも、保険証は廃止しちゃダメ。絶対!

アストリッドとラファエル シーズン4

  • 『アストリッドとラファエル 文書係の事件録』シーズン4 も最高です。全話傑作と言ってもいい。

dramanavi.net

第1話

有名なダイヤ「ドラゴンの眼」がド・クレシー館で展示される事に。厳重な警備が敷かれるが、一般公開前にセキュリティーの責任者トマ・マルスが撲殺されダイヤが盗まれる。凶器は現場にあった展示品の像。防犯カメラ、システムは一時的にダウンしていた。アストリッドは犯人一味が巧妙な方法で電磁パルス発生装置を仕掛けていた事を突き止める。ダイヤの所有者はカタールの富豪サウド・カーン。被害者トマは一年前、カーンの美術展で盗みを働き逮捕されていた。そんな中、ダイヤは意外なところから発見されるも、何者かに強奪、さらにまた、そのダイヤもまた偽物と分かり……。華麗なるダイヤ窃盗事件をびっくりするほどリズミカルに描いていく。「日曜劇場」の薄くて軽〜い演出を真似たかのような、妙なテンポだった。それでも、小ネタはてんこ盛りで、新シーズンの幕開けにふさわしい。そして、アルチュール……。

 

第2話

イラン出身のシャフリャール・ムサビが自宅で遺体となって発見される。彼は祈りのポーズを取ったまま全身丸焼けとなっていた。死亡直前、彼は警察に助けを求める通報を行っていて、火の精霊イフリートに殺されるという趣旨を口にしていた。状況は人体の自然発火。路上生活者などが泥酔してタバコを吸い、その火が引火して死亡する例はあるが、現場は清潔な自宅内であり、被害者はイスラム教で酒は飲まない。さらに発火物が皆無。ムサビは五年前にイランから難民として来仏。娘が一人。評判もよく動機などは見当たらない。しかし、現場より脅迫状が見つかり、やがて意外な過去が判明する。絶対的動機を持つ者が複数。果たして犯人は……。薬物と化学反応を用いる殺害方法、被害者の過去と社会的な問題、犯人捜しとミステリーの要素が見事に凝縮された傑作。前回の宝石泥棒もネタがてんこ盛りであったが、今回も。演出のノリも含め、何となくCSI の香りが漂う。

 

第3話

八人を殺した猟奇殺人者マルク・ノワゼが潜伏先のクロアチアで逮捕された。ラファエルは、憲兵隊のブルゴワン警視とともにフランスまでの護送任務に就くことに。しかし、離陸した飛行機のトイレで、マルク・ノワゼは変死を遂げる。飛行機から送られた動画を元にした検視の見立ては減圧症。ノワゼは逃亡の際、海に戻った。その後、ガスが抜けきっていない状態で飛行機に乗り、急激な高度上昇を経験。ガスが膨張し死亡した。事故との見方が広がる中、アストリッドは胸の小さな注射痕に着目。ノワゼは離陸時に水素を注入されたらしい。気圧変化に敏感な水素は高度上昇によって膨張したのだ。駐車が行われたのは離陸後の機内。つまり、犯人は飛行機内にいる。フランス到着後、全員を留めておくことは難しい。ラファエルは着陸までの一時間半以内に、犯人を突き止めねばならなくなる。これは、シーズンどころか、作品を代表する傑作。前二話に続く、科学的トリッキーな殺し技。そしてタイムリミット飛行機もの(大好物!)。二転、三転の捜査に意外な犯人と三拍子、四拍子、何拍子も揃っている。キャラクターが落ち着いて、もはやアストリッドのアタフタに頼れなくなった結果、とにかく凝りに凝った殺人事件ものへ、そして完成をみたチーム捜査ものとしての面白さも見えてきた。実はシーズン4、ここまでは一番好きかも。

 

第4話

フィリップ・マルシャンが自宅そばの公園で刺殺体となって見つかる。刺し傷は六カ所。凶器は付近に捨ててあり、砂場からは埋められたUSBメモリが発見される。しかし、メモリの中身は空。妻と一人息子を持つ善良な男がなぜ殺されたのか。しかし、妻が把握していた仕事先に、フィリップ・マルシャンという人物はいない。さらに、凶器の包丁から発見されたDNAは被害者本人のものだった。刺し傷から見て自殺とは考えられない。ラファエルたちは、被害者に双子の兄弟がいたのではと推理するが……。イザーク・ラクデムの名前が出てから、ある程度真相は推測できるのだが、二重生活、双子、DNAなど多くの小ネタが効果的にきいてきて、最終的なテーマに着地するまで、まったく飽きさせない。もはやシーズン1の頃とは良い意味で別物の作品となっていて、それはCSI 的であり、モンク的であり、四年かけてここに来たという事実に、やはりドラマの力は「継続」にあるのだなとあらためて思う。

 

第5話

チェスの対局中、ミハエル・コロレバが突然、死亡する。死亡原因はボツリヌス中毒と思われる。しかし、被害者はいつ毒物を摂取したのか。アストリッドは被害者が対局中、爪を噛む癖があったことに着目。毒物はチェスの駒に塗られていたのだ。プレーヤーが白か黒かは対局直前、コインで決められる。犯人はなぜ被害者の駒色が予測できたのか。さらにポケットには赤いビショップの駒が入れられていて……。次の対局、コロレバの対戦相手であったナイトウの不審な行動にアストリッドが気づく。その後、ナイトウはホテルの窓から何者かに突き落とされ墜死。喉には赤いクイーンの駒で入れられていた。赤い駒の示すものは何か。チェスプレーヤーを狙った犯行はさらに続く。犯人の目的は? チェスのごとく精緻に計画された犯罪計画にアストリッドが挑む。ここまでの五話、全部傑作。すごいね、これは。コインの仕掛けから、赤い駒、殺人そのものに込められたメッセージ。すさまじい情報量。途中で、もしかしてこれは「特捜最前線」のアレでは!? と一人騒然となっていたのだが、近づいたのは一瞬でまったく別方向に分岐していく。それにしても、チェステーマでこれだけのネタを盛り込みながら、要所要所できっちりアストリッドとリンクしていて、完成度の高さには唸るばかり。

 

第6話

「気候的不服従」の創設者クレマン・スラノブスキーが街頭での活動中、女に刺され重傷を負った。犯人の女は逮捕されるが、身元などは不明。ラファエルの取り調べに対し、女はアンドレア・マルタン、2021年生まれと語る。女性は38歳。自分は2059年からタイムトラベルをしてきたと告げる。ラファエルは事件の手がかりを求め、被害者と共に「気候的不服従」を創設したコンチェッタ・トラビスを探すが、彼女はヒマラヤトレッキングのためネパールに。同僚の証言によれば、クレマンとコンチェッタは石油会社オペラ社の不正について調べており、命を狙われていたという。さらに、「気候的不服従」の施設内から、ネパールにいるはずのコンチェッタの腐乱死体が発見され……。捜査が進む中、環境汚染により暗い未来となる事を予言するアンドレア。彼女は本当にタイムトラベラーなのか。時間SFが飛び込んできましたよ。しかも、従来とは違う結末をひっさげて! これは凄いなぁ。シーズン4だからできるマジックみたいなものだ。安定と余裕がある。素晴らしい。

 

第7話

ハロウィーンの夜、男が酒場で殺害される。店主はアンクーを見たと証言。アンクーとはブルターニュの死神。鎌を持ち帽子をかぶった骸骨だ。ところが、遺体がエルワン・ル・トレアッシュと判明し、事態は急展開。彼は実業家の富豪ル・トレアッシュの後継者であり、二年前、自動車事故で死亡していた。DNAで被害者はエルワンであると確認。では、二年前に死んだのは誰だったのか。遺体検案書を書いた医師グウェンダル・ルルーに疑念を抱いたラファエルたちだったが、彼は自宅で首を吊って死ぬ。ラファエルたちは、現場であるグワドムール村( 片道車で六時間)へと向かう。そこで、彼女たちを待ち受けていたものは……。既に死んでいた男が死神に殺されるというハロウィ〜ンな出だしから、トントンと論理的に話が進むも、田舎に出かけてからが不可解な呪いのおまじないが頻出。ちょっと無理矢理感があるんだけれど、二時間サスペンス風、一族ドロドロオチに持って行くまでの勢い付けとしては実に楽しい。思えば、アストリッドが進化しすぎて、もはやパニックを起こしシクシクと泣くような場面がほとんどない。ボケ要員として、非常にモンクに近しい位置づけになっているように感じた。

 

第8話

ラファエルの運転する車が事故を起こし病院へ。車の助手席には、男性の射殺体が乗っていた。男の身元はジャン・マルク・ルーベ。FCブローニュの会長であり、10年前、サッカー選手の発掘と称し、金を荒稼ぎ、多くの子供たちを不幸のどん底へと押しやった人物。ラファエルは彼を追っていたが、捜査は頓挫、ルーベは不起訴に。彼はラファエルを逆に訴え、接近禁止命令を勝ち取っていた。二人は因縁の仇同士。ラファエルは事故の影響で数日の記憶が欠落しており、ルーベ殺しの第一容疑者にされてしまう。容疑者に近しいため、アストリッドたちは直接、捜査に携わることができない。自身の無実を証明するため、ラファエルは病院から逃走。警視正たちの助けを借り、アストリッドと共に真相を追う。シーズン最終話、今回はラファエルにクローズアップ。良質な「逃亡者」サスペンスを見せてくれる。「メンタリスト」と同様で、見慣れてくると真犯人が一発で判ってしまうところが問題ではあるけれど、シーズン4は、作品自体が大進化を遂げて遂げていて、どのエピソードもすべて傑作。大小のネタを惜しげも無く盛り込み、全方向に目配りが行き届いている見事な仕上がり。ゆるりとしたクリフハンガーだけれど、シーズン5も当然、あるんですよね。楽しみ。