怪獣万歳!

muho2’s diary

小説を書いて暮らしている大倉崇裕です。怪獣が3度の飯より好きです。政治的な発言は控えていましたが、保険証廃止の動きで頭が沸騰し、しばらく叫き続けていきます。自分自身大病もしたし、12年間親の介護もしました。その経験からも、保険証は廃止しちゃダメ。絶対!

21世紀 本格ミステリ映像大全

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  • 「21世紀 本格ミステリ映像大全」(千街晶之編・著)が発売となりました。2000年以降に発表された本格ミステリマインド溢れる映像作品を「日本映画」「国内テレビドラマ」「国内テレビアニメ」「海外映画」「海外ドラマ」「テレビバラエティ」の各パートに分けて紹介。脚本家、黒岩勉氏へのインタビューや本格ミステリライターズというミニコラムなど読みどころ満載。
  • そしてこの本は2003年、扶桑社から出た「越境する本格ミステリ」(監修 小山正、日下三蔵)の続編的内容でもあります。
  • 私は海外ドラマパートを中心に協力させていただきました。ミステリドラマは大好きですが、最近は膨大な海外ドラマを追いかけるだけで精一杯。海外映画などは大きな穴となっています。こうしたガイドブックはありがたい限り。私も活用させていただこうと思っています。千街さんに感謝。
  • 発売直後ということなので、宣伝かねて、私が担当した海外ドラマ作品、そのいくつかをここで補足の形で紹介していこうと思います。
  • まずは「フーディーニ&ドイル 謎解きの作法」

 

「フーディーニ&ドイル」

第1話

シスター・ファビアンがマグダレン洗濯所(未婚の母が洗濯をして働く場所)の自室で、喉を切られ殺害された。発見者である修道女ウィニーは、幽霊を目撃。それが半年前に死んだルーシーであったと証言する。しかも、部屋は密室。犯人は幽霊なのか。新聞を見た脱出王フーディーニーはロンドン警視庁を訪ねる。そこには、超自然現象の知識を提供しようと、コナン・ドイルがやって来ていた。合理的解決を主張するフーディーニと超常現象を信じるドイルは互いに反発、二人で捜査を行うことになる。捜査が進むにつれ、洗濯所内において、ルーシーはシスターたちから辛く当たられ、厳しい責めの後、死んだらしい。つまり、ルーシーの幽霊は恨みを晴らしたことになる。やがて、第二の殺人が。思っていた以上に正当派のミステリー。不可能興味の謎をドーンと開示し、地味な論理的結末に落とす。結末は地味すぎるくらい地味で、もうちょっと嘘があってもよかったのにと思うくらい。でも志は良し。

第2話

女性活動家リディア・ベルワースが街頭演説中に撃たれケガをした。撃ったのは少年であり、自分は復讐をしたと主張する。もし少年の主張が本当であれば、輪廻転生、死後の世界の存在が証明されることになる。ドイルはフーディーニと共に早速、捜査を開始する。少年はストラットンの尋問に対し、名前はマーティン・オプトンであり、自分は頭を撃たれ殺害されたから、復讐をしたと答える。マーティンは12年前、29才で行方不明となっている。そして、少年はマーティン・オプトンの白骨死体が埋まっている場所に、ドイルたちを案内するのだった。生まれ変わりは、本当にあるのか。前半でこれでもかと、生まれ変わり説を補強していく。その過程は圧巻。解決に至る超常現象潰しはややあっさり目だが、犯人も実にいい立ち位置で、本格ミステリーとしてこれ以上ないまとまりをみせている。志も高い。

第3話

どんな病気も治してしまう「神の手」を持つダウニー牧師。「信仰治療」の集まりの最中、牧師を非難したバッチという男がその場で謎の死を遂げる。それは神罰なのか。ダウニーは癌などの不治の病を治療する一方、彼の周囲では不審な事故や死が続いていた。神の手を完全否定するフーディーニと、結核で意識不明の妻を何とか助けたいドイル。信仰は、本当に人を救うのか。バッチの死は、神によるものなのか。そんな中、フーディーニの体に異変が……。二人のキャラクターと立場が一番上手く昇華されていたエピソードだと思う。「神の手」の真相については、放り投げ? のような印象もあるけれど、正反対の意見を持つ二人のミステリードラマとしては見事な仕上がり。犯人もいい。

第4話

自動車会社社長アンダーヒルが自宅の八階から転落死した。馬車に代わる移動手段として普及が進む自動車。業績好調であった社長が自殺をするはずもない。一方で、ライバルである貸し馬車業者などから脅迫も受けていた。しかし、犯人は八階から、いかにして被害者を突き落としたのか。寝室には第三者もおり、犯人が部屋に侵入し突き落としたとは考えられない。捜査を始めたフーディーニとドイルたちは、事件当夜、空を飛ぶ怪人という不可思議な目撃談を聞く。それは、かつて恐れられた怪人「バネ足ジャック」の再来を告げるものだった。古くは100年前から記録に残る怪人で、現れた後には、必ず歴史的悲劇が訪れるという。二人は怪人の謎を追う。怪人の正体にはあっと言わされる。ロマンを感じる人もいれば、興ざめな人もいるだろう。ここまで見てきて思ったが、このドラマは人を選ぶかもしれない。でも、その志や良し。

第5話

霊能力者を名乗るコージャ夫人が誘拐され行方不明となっていた少女を下水道から救いだした。下水道の壁面には「無実の者はいない」との血文字が書かれ、少女は溺死寸前であった。一年前港で働くピアースの娘エミリーが誘拐され、貯水槽で溺死体となって見つかった。同一犯の仕業なのか。警部はコージャ夫人に協力を求めるとともに、フーディーニとドイルにも捜査への参加を要請する。犯人捜しの一方で、問題となるのはコージャ夫人が本当の霊能力者か否か。二人の意見はいつもの通り分かれるが……。そんな中、新たな誘拐事件が発生する。彼らは少女を救うことができるのか。奇抜な謎を呈示し過ぎるため、ややバランスを欠くエピソードもあるが、今回はすべてがばっちり決まっている。すべてこのレベルで展開していれば、長寿シリーズとなり得たかもしれないが、こんな難易度を毎回やるのは不可能なため、そこはあきらめるよりない。恐ろしく高い難易度を毎回クリアしているのは、「シャーロック」だが、やはり数年で数本が限度だろう。この作品もそのくらいのスパンで勝負すれば、長く名前の残る傑作になったかもしれない。何より志しが素晴らしいのだから。

第6話

ネザームアに光る物体が墜落。さらに、近くに居合わせた男女が宇宙人に襲われ、女性が行方不明になるという事件が起きる。超常現象の専門家としてネザームアに送りこまれたフーディーニとドイル。宇宙船を目撃したのはダニエルと妻のローザ。村人たちはダニエルがローザを殺し遺体を隠したと考えている。下手をすると私刑に発展しかねない。ダニエルは飲酒癖のある短気な男。宇宙人は飲酒による脳障害が作りだした妄想だとドイルは判断する。一方、黒人ということで人種差別を受けるダニエルに同情したフーディーニは彼の話を信じ捜査を進める。果たして宇宙船は本当に着陸したのか。行方不明となったローザの運命は? いやまさに、新本格ですよ、これ。解決も含めて。新本格なら途中でもっとスケールのでかいイリュージョンをかますところだけれど、そこは自制が効いていておとなしめ。効かす必要なんてないのに。しかし、大まじめに宇宙船と宇宙人をやるんだから、その志や良し。

第7話

教会でナイジェル・ベニントンが錯乱、牧師に食いつき死亡した。数人の男性を突き飛ばし暴れる様子は、悪魔憑きそのものであった。フーディーニとドイルは、彼女がベスレム王立病院、通称ベドラムの患者であったと知る。彼女は恐怖を治す研究をしているドクター・ランドルの患者だった。さらに悪魔払いの儀式中、男性サイモンが意識不明に。首筋にはナイジェルと同じ蕁麻疹のような痕が。その痕は奈落の主アバトンか。憑依を信じるドイルと信じないフーディーニ。やがてアバトンを自称する元司祭ナサニエルの存在が。父チャールズ・ドイル精神を病みアルコール依存症であったことを巧みに織りこみ、現実と幻覚の狭間を描きだしている。そして、予想されたことではあるが、シャーロック・ホームズの登場。これ、ホームズものの一つとして取り上げる価値があると思う。志も良し。

第8話

コナン・ドイルの友人ブラム・ストーカー宅でメイドが心臓に杭を打ちこまれ殺害された。ストーカーは、「ドラキュラ」を出版して以来、それに耽溺する人々に悩まされてきた。だが状況から見て、最も怪しいのはストーカー自身だ。捜査を進めるうち、被害者とストーカーの間で諍いがあったこと、ストーカーが大金を彼女に渡していたことなどが判明、容疑はますます濃くなっていく。彼の無実を信じるドイルは、フーディーニのホテルの一室に彼を匿い護衛をつける。そして或る夜、ストーカーはホテルを抜けだし……。ここにきて「ドラキュラ」ものとは。よく判っているというか、予告編を見たときの興奮ときたら。ただ正直いって、本編の内容は極めて大人しい。論理と科学、超常現象と幻想を貪欲に取りこむのはいいのだけれど、その結果が猛烈に地味になっているというのはいかがなものか。しかし、志は良し。

第9話

フォークロフト邸で主人が残忍な方法で刺殺された。発見者であり、第一容疑者でもある妻は、それがポルターガイストのせいであると主張する。その家の前の住人ターナー家は全員が悲惨な死に方をしていた。錯乱した主人が妻や子ども二人を殺害、自殺したのだ。呪われた家の調査に向かうドイルたち。そしてそこには、死者との通信機を発明したとされるトーマス・エジソンの姿も。果たして霊界は存在するのか。一同の前で起きる怪奇現象と新たな殺人。意外な犯人とは……。エジソン登場! そしてネタはポルターガイスト。やっぱり判っているなぁ。そしてすべては確信犯だ。怪奇幻想と論理の解決が上手い具合に回り始めている。もう少し、続いていれば。せめて、フルシーズン……。でも、志は良い。

第10話

オンタリオにある村で、村人47人が突然死する。生き残ったのは神父を含む二人だけ。外傷もなく死因は不明だ。同時刻、一瞬にしてこれだけの人間をどうやって殺害したのか。そして、なぜ二人は生き残ることができたのか。そしてストラットンと死んだ夫を巡る事件もいよいよ真相解明へ。彼女が見つけ出した真実とは……47人の突然死という謎は実に魅力的。終盤は別の大事件が展開するのだが、バランスもいい。志の高いこのドラマも残念ながら、ここで最終回。ドイルがバスカビル家の犬を書き始めるところまで。ああ、もう少し見たかったなぁ。