怪獣万歳!

muho2’s diary

小説を書いて暮らしている大倉崇裕です。怪獣が3度の飯より好きです。政治的な発言は控えていましたが、保険証廃止の動きで頭が沸騰し、しばらく叫き続けていきます。自分自身大病もしたし、12年間親の介護もしました。その経験からも、保険証は廃止しちゃダメ。絶対!

長坂秀佳ではないけれど、CSI 5の最終回はすごかった

  • 「CSI シーズン5」の第24話、25話を見て、あまりの面白さにふらふらとなった。


道に「体の一部」が遺棄されているとの通報が入った。CSIの捜査官が現場に向かったが、何者かによって拉致されてしまう。現場に残されたジャケットには、アルコール臭のする繊維片。少し離れた場所には、証拠品袋に入ったカップ。タイヤ痕などから、犯人は失神させた捜査官を大型車で運び去ったらしい。その目的は何か。
やがて、CSIのラボに封筒が。入っていたのはテープとUSBドライブ。テープには「12時間以内に100万ドル用意せよ」とのメッセージ。そしてUSBドライブを接続した画面に映し出されたのは、生き埋めにされた捜査官のライブ映像だった。強化プラスチックの「棺桶」に入れられた捜査官は、いずこかの地中に生きたまま埋められていたのだ。
棺の大きさは60×60×180の6480立方メートル。空気は約600リットル。一度の呼吸で使用される空気は0.5リットル。呼吸は一分間に約12回。パニックに陥った場合は倍の24回。棺内の空気は一時間強しかもたないことになる。
犯人は12時間を確保するため、空気取り入れ用のファンを用意していた。だがそれは、棺内の照明装置と連動していた。捜査官の映像は、CSIラボのパソコンをワンクリックすることで約2分放映される。だが、その間はファンが停止する。ラボで映像を受信し続ける限り、棺内の空気は減っていく。
テロリストとはいかなる取引もしない。市は100万ドルの支払いを拒否。
エクリルの計らいにより、再び一つのチームとなったグリッソムたち。
与えられた時間は12時間。犯人を逮捕し、捜査官を救いだすことができるのか? 

  • この前後編の監督は、クエンティン・タランティーノ。「ER」や「エイリアス」などにつづく登場となった。何とまあ、オタクな人なのだろう。
  • 原案や脚本にどの程度タランティーノが絡んでいるのかは判らないが、今回は通常の「CSI」とはまったく別物と思った方がいい。冷徹なまでの割り切りと抜群のスピードで見せるのが「CSI」の真骨頂だが、タランティーノの演出はそんなことに頓着していない。息が詰まる緊迫感、ふだんは触れることのないCSI捜査官たちの人間的な一面をぐさりとえぐり、事件の残虐性とともに生理的にぞわぞわしたものをこちらに投げてくる。本当に凄い二時間だった。テレビの前からしばらく動けないほどの完成度だった。びっくりした。
  • 生き埋めにされた仲間を生中継で見る、という発想も凄いが、小道具を含めた細部の練りにも驚かされる。こうしたサスペンスの正否は小道具の使い方で決まったりする。そのあたりの押さえが完璧だった。例えば、「ガム」。冒頭で何気なく出てきた「ガム」が、「拳銃」と後半の「虫」に効いてくる。「拳銃」は途中の「棺崩壊」に連動、終盤の「自殺」サスペンスにきっちりと繋がる。
  • 小道具がCSI捜査官たちのキャラクターに連動していることも注目。ふだんはあまり顧みられることのない部分だが、この辺はタランティーノの要望だろうか。だとしたら、恐るべきオタク様だ。例えば、今回被害者となる捜査官は誰でもよかった。たまたま、犯人が指定した現場に出動してきたため、選ばれたのだ。その選択のきっかけとなったのが、他愛もないギャンブル。ここはウォリックに通じる。身代金を払わないと決定した後、キャサリンは独自に金を集める。大金を一夜で集めることができるのは、彼女だけ。その伏線は前シーズンから張られていた。その伏線の一時的な解決をも、このエピソードは行っているのだ! さらには「生き埋め生中継」は音のない世界。そこがグリッソムの読唇術に結びつく。後半の「虫」は昆虫好きというグリッソムにピタリ。そしてそれが解決に直結しているのは、鳥肌を過ぎて涙ものだ。
  • このエピソードを見て、一番に感じたのは、すごく「長坂秀佳」的であったこと。誘拐の長坂、爆弾の長坂、各キャラクターを活かし、すべてに活躍の場がある……。埋設現場特定の一瞬はまさにそれ。各捜査官がそれぞれ行ってきた捜査がパズルの一片となり、情報が総合したときに唯一の答えが出る。これは美しかった。
  • グリッソムのセリフ「私を信じろ」にはジーンと感動。
  • ただし、首を捻る部分もあった。特に、あの趣味の悪い人体解体を描く「捜査官の悪夢」シーンはいらないだろうし、これは各人で印象は違うと思うが、ラストシーンが彼女で終わるのはどうかなとも思う。いっそ、「部下を返してくれ」でスパンと終わった方がいいような気もする。一方では、刑務所でのやり取りが絶妙の余韻となって心に迫る気もするし……。判断は難しい。
  • 前編ラストでの犯人の行動も、理屈としてはおかしいのだけれど、ここはエンターテイメントの優先ということで許容していいと思う。
  • 全体的な評価は分かれているようだが、私個人は大好きなエピソード。「CSI」シリーズの到達点だろう。
  • 「相棒元旦スペシャル」につづき、素晴らしいドラマを見た。幸せだ。