怪獣万歳!

muho2’s diary

小説を書いて暮らしている大倉崇裕です。怪獣が3度の飯より好きです。政治的な発言は控えていましたが、保険証廃止の動きで頭が沸騰し、しばらく叫き続けていきます。自分自身大病もしたし、12年間親の介護もしました。その経験からも、保険証は廃止しちゃダメ。絶対!

長坂秀佳と「天才犯罪者・未決囚1004号!」

  • 麻耶雄嵩氏も推薦する特捜最前線第177話「天才犯罪者・未決囚1004号!」(脚本・長坂秀佳 監督・青木弘司)を見て、あまりの面白さにふらふらとなる。


 昭和38年女性溺死事件、昭和44年新婚旅行中における妻転落死事件、昭和50年睡眠薬服用による女性変死事件。そのすべての事件に参考人として聴取を受けていた男、小田沢清人。だが、いずれの場合も決め手を欠き、清人は女性たちの遺産を相続、アメリカへと渡った。
 東京が震度5の地震に襲われた夜、新宿高層ビルの一室で女性社長が、棚から落ちた仏像に当たり死亡した。だが捜査の結果、凶器となった仏像は地震にあわせて棚から落とされたと判明。その直後、被害者の夫である清人が自首。身柄を東京第2拘置所へと移された。
 昭和38年からの事件に清人が関わっているのは間違いない。橘は囚人として拘置所に潜入。清人に接近する。
 ある日、高窓から紙飛行機を飛ばそうと、囚人が椅子を踏み台がわりに持ち出した。それを見た清人の顔に動揺が走る。彼は一体、何に気づいたのか。橘は清人の行動を推理。彼が今夜、脱走すると確信する。
 怒濤の展開はまだ終わらない。橘の機転により、脱走した清人はその「目的」を果たすことなく逮捕。女性社長殺人事件は決着がついたかに見えた。しかし、船村刑事の調べにより、清人は両腕が肩より上に上がらない奇病におかされていると判明。社長を殺すため、仏像を棚から落とすためには、両腕を高く上げなければならない。だが清人にはそれができない。
 このことが、脱走の理由に直結している。だが画面上ではアンフェアな見せ方になっているため、見ているだけで真相に辿りつくのは不可能か。
 清人犯人説に疑問が投げかけられる中、今度は彼にアリバイがあったことが判明。地震があった時刻、彼は浮気相手である社長秘書の自宅にいたという。その事実は管理人が確認している。しかも、自宅へ向う途中、清人が地震で落ちてきた石により膝を怪我していたと証言。地震が起きることは清人にも予測できなかったはず。やはり清人は無罪なのか。
 天才犯罪者の自首が前半の焦点、脱走の動機、アリバイの確認が中盤の焦点、そして後半、清人は本当に犯人なのかどうか。
 ラスト9分、清人役梅野泰靖のトラウマ的名演技を目の当たりにする。この人の顔をもう一生、忘れられなくなること間違いなし。

  • 船村刑事が冤罪をはらす「やってないシリーズ」(命名大倉)に対し、橘が完全犯罪に挑む「あいつがやったんだシリーズ」(命名大倉)。その最高傑作といっても良いだろう。長坂秀佳は明らかにコロンボを意識している。それも、「二枚のドガの絵」や「断たれた音」などの最後の最後に見せる行動、言葉により、ぴたりと決まる、ある意味「サプライズドエンディング」ともいえるものを目指したに違いない。その目標はある程度、達成されているだろう。
  • 次回の長坂秀佳はダイナマイト300キロが強奪される怒濤の前後編「ダイナマイトパニック」です。