怪獣万歳!

muho2’s diary

小説を書いて暮らしている大倉崇裕です。怪獣が3度の飯より好きです。政治的な発言は控えていましたが、保険証廃止の動きで頭が沸騰し、しばらく叫き続けていきます。自分自身大病もしたし、12年間親の介護もしました。その経験からも、保険証は廃止しちゃダメ。絶対!

長坂秀佳と「死んだ男の赤とんぼ!」

  • 特捜最前線第86話「死んだ男の赤とんぼ!」(脚本・長坂秀佳 監督・佐藤肇)を見て、あまりの面白さにふらふらとなる。


[ストーリー]
上野、西郷像の前で麻薬密売犯二人が逮捕された。その際、犯人の一人が発砲。流れ弾が偶然、その場にいた老人に命中した。即死した老人は、身元を示すものを何も持っていない。財布など金品は身につけておらず、ベルト、靴もない。レインコートはボロボロ、だが、下に着ているシャツなどは高級品である。老人はいったい誰なのか。訝しむ特命の面々に新たな事件発生の報が。富士見光建設社長、五條彦八郎が何者かに誘拐されたというのだ。その日の午後3時すぎ、彦八郎は突然車からおり、そのまま行方不明になったという。ワンマンの鬼社長といわれる彼を怨む者は多い。毎日のように届く脅迫状に脅迫電話。事件を絞りきれず、とまどう特命課。だが、社長室で彦八郎の肖像画を見た神代はあまりのことに愕然とする。上野で死んだ老人。彼こそが五條彦八郎だったのだ。彦八郎が車をおりたのが午後3時15分。上野で射殺されたのが、3時50分。空白の35分間、彼にいったい何があったのか。彼はなぜ車をおりたのか。捜査を進める紅林たちは、鬼と言われた社長の内面の姿を知る。

  • 長坂秀佳という人は「ロマン」が好きだったのだなと改めて思う。この作品、特命課が捜査すべき「事件」は、ほとんど存在しない。捜査をする理由さえ見つからない。せいぜい、彦八郎に対する脅迫程度か。犯人不在の刑事ドラマと言っても良い。
  • 捜査の主眼はあくまで五條彦八郎の過去さがし。冷酷非情、鬼と呼ばれる社長の真の姿を追う。そのモチーフとして選ばれたのが、「赤とんぼ」であるのだから、やはり長坂秀佳は天才と言うしかない。
  • 西村晃演じる五條彦八郎というキャラクターが出色。しかも、彼は冒頭で死んでしまうわけで、その後何を語られても、視聴者には切なさが残るのみ。合併に絡む労働争議にドスを持ち一人で乗り込んだ男。冷淡に妻を捨てた男。継子を殴りその左耳を潰してしまった男。自殺した社員に対する見舞金の支払いを拒否した男。子供たちの見守る前で養護施設の取り壊しを始めた男。その「印象」が180度転換したとき、事件の真相が見える。
  • とはいえ、真相はあまり衝撃的とは言い難い。ラスト近くで「えっ!?」と言わせてくれれば、間違い無く大傑作になったであろうに。奥村公延演じるホームレスとのくだりが、見ようによってはギャグ漫画のよう。
  • キーワードは乳母車、百合、弾丸。三つが衝撃的に揃うラストシーンに長坂秀佳のロマンを感じる。