怪獣万歳!

muho2’s diary

小説を書いて暮らしている大倉崇裕です。怪獣が3度の飯より好きです。政治的な発言は控えていましたが、保険証廃止の動きで頭が沸騰し、しばらく叫き続けていきます。自分自身大病もしたし、12年間親の介護もしました。その経験からも、保険証は廃止しちゃダメ。絶対!

長坂秀佳と掌紋・300202!

  • 「特捜最前線」第317話「掌紋・300202!」(脚本・長坂秀佳 監督・田中秀夫)を見て、あまりの面白さにふらふらとなる。

 

政治家、城所徳永の事務所を捜索する特命課。彼には「証拠書類隠匿」の容疑がかけられていた。
特命課が探すのは、政府高官、佐倉が残した通称「佐倉ノート」。ノートには、政治家たちによる贈収賄の記録が残されている。佐倉の死後、ノートは転々、ついに城所が手にすることとなった。彼はノートを主流派に売りつけ、大臣の椅子を強請り取ろうとしているらしい。城所の事務所は三つ。そのすべてを捜索したものの、「佐倉ノート」は見つからない。城所はその所有を頑強に否認。特命課に残された最後の可能性は、事務所の一つに設置された隠し金庫。金庫には電子ロックとタイムロックという二重のセキュリティがかけられている。電子ロックの解錠には、六ケタの数字。これは城所しか知らない。タイムロックは午前と午後八時ジャスト。この時刻に六ケタの暗証番号を入力することでしか、金庫は開かない。
城所が拒否し続ける限り、「佐倉ノート」の押収は不可能に近い。壁に当たる特命課。
桜井たちの調べで、城所が探偵より67通もの報告を受けていることが判る。依頼内容は昭和30年2月2日生まれ、そして城所の所持する手形と掌紋が一致する者を探せというもの。彼がなぜ28歳の男性を捜さねばならないのか。突破口を見つけるべく、特命課は捜査を開始する。
捜査線上に浮かんだのは、菊岡ゆりえという女性。資産家の娘でありながら家出、銀座のホステスをしていたところを城所に見初められたのだ。その後妊娠するが、城所の体面を考え失踪、昭和30年2月2日、救急病院で男子を出産した。ゆりえは退院と同時に子供を施設に預け、翌日、伊豆の海岸で溺死体となって発見される。
城所は未だ会ったこともない我が子を探していたのだ。それは親の愛情ゆえなのか。それとも、子供が相続した菊岡家の財産目的のものなのか。
一方、城所の動きに対し、何者かが死神博士……もとい、天本英世……もとい、殺し屋を雇う。
再会した親子を待つものは……?
爆弾が仕掛けられた隠し金庫。隠された六ケタの暗証番号が示すものは……。

 

  • DVDのベストセレクションに収録されていたものだが、これは大傑作であり、収録もうなずける。
  • 城所と子供の数奇な運命というか、極限状況とも言える再会は特捜メインライターにしか描けない物語。キャラクターを深めるのに、「殉職」ではなく「再会」を使うところが特捜的というか長坂秀佳的というか。
  • 親子再会とリンクする形で描かれるのが「城所の真意」と「爆弾」。城所が実は「政界浄化のためにノートを入手した」という可能性が提示される。これはまさに神の着想で、その真意を最後まで、視聴者にすら明かさない演出も巧み。その真意をふまえたうえで、親子の葛藤が描かれ、それが生死を分けた爆弾処理に直結する。すべてが見えない糸で繋がっているわけで、細かく吟味すればするほど良くできた脚本である。暗証番号が判らないというサスペンス、残された時間が二分になるよう設定された舞台、すべての解答が、「親子の情」で結実するラスト。こんなストーリーをどうやって考えたのだろう?
  • ゆりえ自殺の真相とか、死神博士狂気のダイナマイトとか、細かいつっこみは置いておこう。隠しカメラをうっかり忘れていた秘書とかも。死神博士の盗み聞きも楽しい!
  • このエピソードが放映されたのは、1983年6月15日。1982年11月17日「リミット1.5秒!」以来となる。この時期は特捜制作側といろいろあって、長坂氏が現場を離れていた(その間、12時間ドラマの執筆)。ギャラの20万アップと「長坂秀佳シリーズ」という冠をつけるなどの条件で復帰。その復帰第一作がこれ。文句なしの一本だと思う。
  • ちなみに、「長坂秀佳シリーズ」は長坂脚本を4週連続で放送するというもの。いいか悪いかはいまだ判断できない。一ヶ月毎週長坂秀佳がある代わり、それが半年に一回になっちまうわけで、リアルタイムならいざ知らず、今となっては、まぁ、別にどっちでもいいことなのだろう。