- N氏とともに紀伊國屋寄席に行く。その前にイエローサブマリンに行ったのがまずく、少し遅れる。
- お目当ては鈴々舎馬桜師匠の「胆つぶし」。この噺は滅多に聴くことがない。桂米朝師匠のものをテープで聴いたくらいか。前半、のどかに始まった噺が、突然、すさまじいまでの緊迫感を帯びる。そして脱力のオチ。緩急が激しい噺であるから、のめりこんで聴かないと、置いてきぼりを食ってしまう。逆にいうと、のめりこませるほどの芸が無いと、聴いていられない噺でもある。馬桜師匠はそのあたりをしっかりと研究されているようで、面白いところは徹底的に面白く、ビリリッと締めるところは徹底的に締める。語り口のリズムにうまく乗せられ、気づいたら、オチ。やられました。米朝師匠がマクラで言っておられたが、「さあこれから、というところで噺が終わりますのや。この後、どないなりますのやろ」。たしかに。
- 感心したのは、柳家喬太郎師匠のちりとてちん。濃い目の顔に濃い目の声ですからねぇ。わりとくどいしゃべりで始まったので、どうなることかと思ったのですが、後半への布石であったのですね。恐れ入りました。しかし、ちりとてちんって、こんなに面白い噺だったかなぁ。
- 印象的であったのは、トリ、五街道雲助師匠のお初徳兵衛。ぴしっとして乱れぬ姿勢。よく通る涼しい声。師匠の姿には金屏風が良く似合います。圧巻はお初と徳兵衛が抱き合う終盤。あれを独りで演るわけでしょう。場面的には完成しつくされていて、もう情景が頭の中にありありと浮かぶ。その中で違和感なく、男女をしっかりと演じ分ける。船の天井を打つ雨音が聞こえてきましたよ。芸というのは凄まじいものです。