怪獣万歳!

muho2’s diary

小説を書いて暮らしている大倉崇裕です。怪獣が3度の飯より好きです。政治的な発言は控えていましたが、保険証廃止の動きで頭が沸騰し、しばらく叫き続けていきます。自分自身大病もしたし、12年間親の介護もしました。その経験からも、保険証は廃止しちゃダメ。絶対!

長坂秀佳と「雪国から来た逃亡者!」

  • 特捜最前線第205話「雪国から来た逃亡者!」(脚本・長坂秀佳 監督・宮越澄)を見て、あまりの面白さにふらふらとなる。

[ストーリー]
暴走バイクから子供を守り、一人の男が死んだ。男は近所のラーメン屋に勤める「戸部平吉」。彼をよく知る叶は、遺族に知らせるため、履歴書記載の住所に向う。ところが、その場所で「戸部平吉」は生きていた。死んだ男が出した履歴書は、本物の戸部が落としたものだったのだ。
遺品の中から見つけた手帳を手掛りに、男の身元を追う叶。手帳には福島県猪苗代の住所、松宮、堀川という名前と電話番号が記されていた。叶は猪苗代へと向う。そこで出会ったのは一人の老婆。彼女は死んだ男の母親であった。松宮とは男の本名だったのだ。松宮はなぜ偽名を使い、東京で隠れ住まねばならなかったのか。だが母親は叶に何も語らない。息子は9年前に死んだと言うばかり。
松宮が何らかの事件を起こし村を出たと知った叶は9年前に起きた事件を調べる。9年前に起きた事件は3件。まずは、寺嶋工務店の社長令嬢誘拐事件。被害者寺嶋かおりが3日間、犯人によって監禁、その後無事解放されたというもの。第2は、3回に渡って起きた連続放火事件。そして第3は、大月という教師が廃屋内で殺害された事件であった。事件は3件とも未解決。その3件すべてに松宮は絡んでいたと言われていた。
松宮犯人説を強硬に主張したのは、古仏伝三、通称すっぽんの伝さんと呼ばれた刑事。彼は退職後も私費を投じ、村を出奔した松宮を追っていたという。
東京に戻った叶の許に、その伝三がやって来る。彼は捜査資料のすべてを叶に渡し、松宮を送検してくれと依頼する。
昭和47年12月2日、寺嶋工務店社長の娘が誘拐された。県警が公開捜査に踏み切った日、彼女は無傷で返される。だが、かおりは監禁されていた3日間のことを黙して語らず。犯人の手掛りはついに掴めぬままであった。
当時、松宮は寺嶋工務店に務めていた。かおりに惚れていた松宮は彼女を拉致監禁、暴行に及んだと伝三は断定する。彼女が監禁中のことを口にしないのは、犯人が身近にいたからだと。しかし、9年前、松宮が出奔した後も彼女は口を開いていない。それはなぜか。
昭和47年12月15-17日にかけて3件の放火事件が発生。放火されたのは、すべて寺嶋の持ち家ばかり。伝三はこの放火が松宮による娘への脅迫であったと推理する。故に、彼女は松宮のことを口にできなかったのだと。
昭和47年12月20日、教師大月が倒壊した廃屋内で死体となって発見される。犯人は大月を殴り昏倒させた後、廃屋の柱を壊し、小屋もろとも圧死させたらしい。被害者大月は工務店に出入りしており、松宮とも顔見知りであった。伝三は大月が松宮の犯行に気づいたのではないかと推理。大月殺しは松宮による口封じであったと主張する。
一本の線で結ばれた3件の事件。だが、それらはすべて伝三の思いこみであり、証拠に乏しい。さらに、昭和42年8月、万引犯を現行犯逮捕した伝三に対し、扱いが乱暴だと苦情を言った青年がいた。彼こそが松宮。二人はその場で口論となり、松宮は伝三を殴りとばしていた。伝三が松宮を犯人とするのは、そのときの偏見からではないか。
松宮は犯人なのか、無実なのか。真実を見つけるため、叶は再度、猪苗代に向う。

  • 長坂節炸裂の名編。伝三を演じるのは多々良純。単純な悪役刑事に留まらず、老いの悲哀をじんじんに滲ませる名演技。しかも、きっちりと一人娘まで出してくる。こうすることで、見ている者は伝三を憎めなくなってしまう。
  • 長坂秀佳は叶刑事が好きだったのか、単純に書きやすかったのか。常にヒーロー役として使っている。
  • 話はヘビーだが、間に二ケ所、開いた口が塞がらないほどに見事なギャグが挿入されている。ラーメン店で身を粉にして働く松宮のことを叶が熱っぽく語る。それが一段落ついたところで、橘が眉間に深い皺を寄せながら、「どーでもいいけど、おまえ、年中ラーメン喰ってるな」。松宮の事件を追う叶だが、糸口は容易に掴めない。悩む叶に紅林が「ほどほどにしとけよ。禿ちまうぞ」。船村刑事がハッと顔をあげ、紅林が慌てて逃げていく。どうしてこんなシーンを入れたのだろう?