怪獣万歳!

muho2’s diary

小説を書いて暮らしている大倉崇裕です。怪獣が3度の飯より好きです。政治的な発言は控えていましたが、保険証廃止の動きで頭が沸騰し、しばらく叫き続けていきます。自分自身大病もしたし、12年間親の介護もしました。その経験からも、保険証は廃止しちゃダメ。絶対!

長坂秀佳と少年はなぜ母を殺したか!

  • 特捜最前線DVDBOX Vol.4に収録されていた、第418話 少年はなぜ母を殺したか! (脚本・長坂秀佳 監督・辻理)を見て、あまりの面白さにふらふらとなった。このエピソードは法廷内のみで進行していく物語。脚本冒頭には、「このドラマは、合議法廷4008の中でのみ進行するので、シーン割りは便宜上の意味しか持たない」と銘記されているとのこと。何てかっこいいんだろう。

第一回公判
認定質問から起訴状の朗読
被告人は有明塁次、21歳。彼は昭和59年5月7日、自宅アパートで実母君枝を絞殺。尊属殺及び麻薬所持で起訴された。事実認否において被告は罪状を認める。ところが、弁護人は被告の無罪を主張。隅田川検事との激しい攻防が始まった。
有明塁次は麻薬所持、野球賭博などで逮捕歴がある。さらに事件の起きる6日前には、わいせつ物頒布の現行犯でも逮捕されている。母親である君枝はそんな塁次を更正させようと、彼のアパートに通い、再三、説得を試みていた。事件当日、塁次が自宅アパートでヘロインを使用しているとき、君枝が来訪。言い争いとなり、かっとした塁次は君枝を絞殺。一度は首つり自殺に見せかけようと工作したが、結局断念し、自ら110番通報した。それらの事実を被告はすべて認めている。
第二回公判
検察官主尋問。隅田川は検察側証人として被害者の父親を呼ぶ。被告塁次の両親は彼が子供のころ離婚しており、被告は父親に育てられた。事件発生当日、塁次はまず父親に電話をしており、罪を告白している。さらに拘留中、父親と面会した被告は何度も罪を認める供述を行っている。これに対する弁護側の反対尋問はなし。
鑑識課員は殺害現場である塁次のアパートの各所で君枝の指紋を採取。このことは、被害者が被告の生活に大きく関与していたことを示す。さらに、被害者の首についた締め後から、犯人が右利きでありながら、左腕の力が強い者であることが示される。
第三回公判
弁護側は供述調書内において、首の締め方に関する被告の証言が二転三転している所を突く。証言は取調べ刑事によって誘導されたものではないのか。
続いて、犯行時刻等の確認。犯行前、被告は井の頭公園で女性と会っていた。
公園を出た時刻 15時30分
アパート着   16時00分
君枝来訪    16時10分
犯行      16時30分
弁護側の証人として、被告の妹左投子が呼ばれる。両親の離婚に伴い、弟、妹と別れ、父親とともに暮らし始めた幼いころの境遇が語られる。父親はかって野球部の左腕ピッチャーとしてならした男であり、そのため、息子にも左投げの特訓をかした。右利きだが、左腕の力が強い。被告は犯人像に当てはまる。
第四回公判
弁護側証人として、特命課紅林刑事登場。
別件での張り込み中、彼は井の頭公園で被告を目撃。彼が女性と別れ公園を出たのは15時44分であったと証言する。その時刻は15時30分とする調書と食い違う。特命課は紅林の証言を元に捜査やり直しを進言。だが、検事の隅田川は断固として受け入れなかった。そこで、特命課は独自で捜査を開始し、ついに被告のアリバイを証明するに至った。紅林は特命課の一員として、被告有明塁次は無罪と証言する。
弁護側証人として、特命課船村刑事登場。
紅林の証言に基づけば、被告が公園を出たのが15時44分。すると帰宅は16時14分。つまり、被告より被害者の方が早く到着していたことになる。
さらに特命課は、被告が公園を出た後の足取りを徹底捜査。彼が女性から死んだセキセイインコを渡され、その遺骸を石神井公園まで埋めに行っていたことを突き止める。石神井公園からはセキセイインコの白骨が見つかっている。被告が石神井まで行っていたのなら、アパート帰着は17時すぎ。解剖の結果、死亡推定時刻は16時30前後で決着している。つまり、被告には完璧なアリバイがあることになるのだ。
第五回公判
検察側の反対尋問。
石神井公園で発見されたセキセイインコの白骨は、必ずしも被告が埋めたものとは証明できない。
アリバイの端緒となった紅林の証言だが、それは紅林の腕時計を基にしたもの。その時計はかなりの頻度で修理にだされている。共に、被告の無実を完全に証明するには至らない。
論告求刑。検察は被告に対し、無期懲役を求刑する。

状況は検察側有利のまま進む。塁次が無実と信じる神代は、自らが特別弁護人となり法廷に立つ。果たして、無実の証明は可能なのか……?

 

  • 陰険そうな女検事隅田川が出色で、もう少し彼女にも人間的な側面を持たせて欲しかったなぁというのは、個人的な感想。
  • 丁々発止の法廷ドラマはもう珍しいものではなくなったが、これが放映された当時としては、斬新極まりなかっただろうと思う。見ていた人はびっくりしたはずだ。
  • 誘拐、爆弾の長坂脚本に比べ、面白いかどうかと言われれば正直疑問だけれど、これだけ挑戦的な法廷ドラマも、実は最初で最後なのではなかろうかと思う。特捜と長坂秀佳を語るときには、はずせない一本だと思う。正面突破の心意気は、物書きとして見習うべきだろう。