- 「月の雫」はその昔、新人賞に応募して落ちた短編を元にしている。造り酒屋の杜氏が殺害された事件を、若手の杜氏が追っていくというものだったが、舞台設定と殺害方法を使わせてもらった。
- もちろん、「刑事コロンボ・別れのワイン」が頭になかったわけではないが、実際に捧げたのは「祝砲の挽歌」である。一級ワインより、密造酒。
- 福家シリーズを始めたとき、福家本人には過剰なキャラクター性を持たせないという取り決めを自身の中でしていた。「最後の一冊」「オッカムの剃刀」は試行錯誤というのもあったけれど、かなり突っ張った感じで書いているのが、今、読み返すと判る。
- 単行本をだした後、一番多くいただいた感想は、「福家の飲み比べシーンが出色」というものだった。まさに目から鱗というやつで、以降、福家を書くとき、肩の力がいい具合に抜けるようになった。福家が聞きこみに言った先々で、人々にちょっとした幸せの種をまいていく、という流れを意識し始めたのも、このころからだ(「オッカム」のときは、無意識にやっている)。
- 福家は当初、全四話で地味に始め地味に終える予定だった。ありがたいことに評価をいただき、続けられることになったのだが、シリーズとして続けていくための何かを「月の雫」は与えてくれた。
- シリーズの原点は第一話「最後の一冊」だが、現在の福家は「月の雫」を起点として成り立っている。