- あくまでも個人的な意見だけれど、桂枝雀師は1970年代後半から80年代前半にかけてが黄金期だと思っている。枝雀落語が広く愛されるようになるのは、そこから後なのだけれど、元来、ウルトラマンCタイプよりBタイプが好きというような性格なので、世間とはことごとくずれているのである。
- これは、初めて触れた落語が、ラジオの演芸番組であったり、カセットテープ(LPレコード)で発売されていた「桂枝雀/上方落語傑作集」であったことが大きな原因だろう。大好きな「七度狐」や「寝床」は、そのリズムでインプットされてしまっている。
- だから、昭和後期から平成にかけての高座を中心に収録している「枝雀落語大全」は、どれも名演だけれど、少しついていけない部分があった。
- CDボックス「枝雀十八番」も、初期の録音を期待したのだけれど、昭和60年代、平成の高座がけっこう多く入っていて、それはそれで楽しかったのだけれど、「桂枝雀/上方落語傑作集」を追いかけている者としては、やはりついていけない部分があった。
- そんな中で、今回発売された「桂枝雀 落語選集 NHKアーカイブスより(1965-1980)」はストライクな内容だった。74年の「かぜうどん」や75年の「七度狐」がまた聴けるなんて。
- そしてもう一つ。解説本に1979年12月26日に放送された「上方落語夜話」冒頭の香川登枝緒氏と古川嘉一郎氏による対談の抜粋が載っている。この後に放送されたのが枝雀師の「宿替え」だったのだが(商品には未収録。収録されているのは、1972年厚生年金中ホールでのもの)、この一席こそが私にとっては生涯の一席であり、枝雀師を愛する出発点になったものである。
- 実はこのときの放送はカセットに録音してある。35年近く前のものであるがいまだ健在。テープのままにしておくのはあまりに危険と長く思っていたが、今回、解説を読みちょっとしたタイムスリップ感を味わったこともあり、その日のうちにCD化した。とりあえずのところ、枝雀師の「宿替え」は永久に不滅となったわけだ。
- しかし、35年前といえば、11歳。その時点でカセット買って、放送時間きっかりにラジオの前に座って、落語を録音していたのであるから、まあ、我ながら良くやるわというか、あの頃からちっとも変わってないわとあきれるというか。
1979年12月26日の「上方落語五夜」はリアルタイムで聴いていた。この対談も聞いたし、そのあとの「宿替え」はテープに録った。そのご何百という落語を聴いたが、いまだ生涯の一席。テープ、まだどこかにあるはずだし、探してみよう。 pic.twitter.com/GU2zQvQ61b
— 大倉崇裕 (@muho1) 2014年12月20日