怪獣万歳!

muho2’s diary

小説を書いて暮らしている大倉崇裕です。怪獣が3度の飯より好きです。政治的な発言は控えていましたが、保険証廃止の動きで頭が沸騰し、しばらく叫き続けていきます。自分自身大病もしたし、12年間親の介護もしました。その経験からも、保険証は廃止しちゃダメ。絶対!

長坂秀佳と少女・ある愛を探す旅! 

  • 第399話 少女・ある愛を探す旅! (脚本・長坂秀佳 監督・天野利彦)を見て、あまりの面白さにふらふらとなる。


 飛び下り自殺をしようとした少女を助けた橘たち。その少女亜紀には、戸籍がなかった。彼女は昭和39年6月生まれ。父親は不明、母親は栄子という。だが母親は4年前愛人と失踪、行方不明となる。以来亜紀は、戸籍がないという事実を隠しながら、仕事を転々としながら生きてきた。
 実際のところ、就籍許可申請を家庭裁判所に行えば、戸籍を取得することができる。だがそのためには、両親のどちらかが日本人であること、または、本人が日本で生まれたことを証明しなければならない。
 亜紀の場合、母親が行方不明になっている。橘たちは彼女のために、母親を探し始める。
 まもなく、栄子は、4年前の府中スーパー警官射殺事件の犯人として手配されていることが判明。
 事件の発端は大沼大吉という男が警官を襲撃、拳銃を奪ったことに始まる。大吉は愛人であった渋谷ホステス上月栄と共に府中スーパーに侵入。だが発見され警官と撃ち合いになった。その際、栄が発射したと思われる弾丸が警官の一人に当たり、死亡。まもなく大吉は逮捕されたが、栄は現在も逃亡したまま。その栄こそが、亜紀の母親、栄子であるというのだ。
 橘たちは栄子の行方を求め、亜紀とともに捜査を続ける。だが関係者たちの証言は栄子の「悪女ぶり」を伝えるものばかり。それを聞いた亜紀は、やがて捜査への意欲をなくしていく。
 一方桜井たちは、警官射殺事件である発見をする。死んだ警官の遺体写真。遺体にはかすかなねじれが加わっていた。弾丸の入射角度が記録とは異なっているのかもしれない。当日、発射された弾丸は五発とされている。被害者を貫通した弾丸は変型が激しく、口径の断定が不可能となっていた。そして、警官が威嚇のために発射した一発。もし威嚇発射が嘘であったとしたら。同日、発射された弾丸が四発であったとしたら……
 栄子は無罪であるかもしれない。だが、それを証明するためには、彼女が持って逃亡した拳銃を見つける必要がある。亜紀の戸籍のため、栄子の無実を明かすため、橘の捜査は続く。

  • 戸籍がない、という表現を巡り、いろいろと問題のあった一作。「長坂秀佳術」182ページ参照。
  • 何がすごいって、物語が最終的に一つの拳銃に収束していくところ。亜紀の戸籍も、栄子の無実も、その拳銃によって証明される。少女の飛び下りというところから始まり、最終的に数十年、親子三代を遡る捜査に発展していく。
  • 手がかりとなる方言の出し方も絶妙。
  • 要所要所のナレーションを各刑事がそれぞれに担当。橘、的場以外にほとんど見せ場はないのだが、ナレーション一つによって、全員が活躍しているように見える。このあたりはこだわりか。
  • 関係者が登場するたびに出るテロップも絶妙。テロップが出るとなぜか燃える。それにしても、どうして橘家圓蔵が出ているのだ?
  • 出だしの引っぱりこみ、中盤の展開、終盤の驚き&感動と長坂脚本の基礎がすべて詰まった傑作。これは必見……といいたいが、滅多なことでは見られないんだよなぁ。悲しい現実。