「5時30分の目撃者」
精神分析医のマーク・コリアは、患者ナディア・ドナーに対し、催眠治療を行っていた。暴力的な夫の支配下にあるナディアの心理を探り、それを新作本のネタにしようという思惑だ。夫に依存しつつも浮気をくり返すナディア。彼女の誘いにのり、別荘に出向いたコリアは、そこで夫カールに出会う。カールはナディアに対する薬物療法の違法性を指摘。浮気の代償として告発するとコリアを脅迫した。さらに激高したカールはコリア、ナディアに襲いかかる。コリアは暖炉の火かき棒でカールを殴りつけ殺害してしまう。
- 極悪犯人のベスト10でもやれば、確実にランクインするであろう、マーク・コリア先生。何といっても、あまりに残虐なナディア殺しが響いている。落下寸前、彼女が上げる叫び声は、子供時分、本当に恐かった記憶がある。そもそも、コリアはナディアに何の愛情も持っておらず、著作を完成させるネタのためだけに、甘言を弄している。すべては自業自得と言えるのだが、カール殺しについては、どう考えてもカールが悪い。
- ラストのトリックは賛否が別れている。「あれはないだろう」と一言で片付けるのは簡単だが、二重三重に仕組まれた「欺き」のテクニックは、やはり見事というしかない。「あれはない……云々」は結末を知っているから言えることであって、初見であれば、コリア先生同様、ひっくり返るほどの衝撃を受けたはずだ。
- 本作はもう少し評価されてもいいと思う。もっとも、コロンボファンは、犯人にもある程度のやさしさ、潔さを求めるから、コリア先生のような極悪犯はどうしても部が悪いのかもしれない。
「意識の下の映像」
行動心理学研究所の所長、バート・ケプルは、不正を暴こうとする顧客ノリス殺害を計画する。顧客に見せる新作フィルム内に「潜在意識のカット」を潜ませ、ノリスを巧みに試写室外に誘導、彼を射殺してしまう。犯人はなぜケプル氏が外に出ることを知っていたのか、凶器はどこに消えたのか。ケプルに疑いを向けるコロンボだが、最後の壁をつき崩すことができない。
- どこかのサイトに「メイントリックがサブリミナルで、それが大々的にラストで提示されたらどうしようかとハラハラして見ていた」との感想がのっていた。まったく同意見。中盤、「サブリミナル効果」について言及され、ホッと胸をなでおろした。
- 本作については、「サブリミナル」のことばかりが取り上げられ、なかなか総括的に評価してもらえない気の毒な作品。ケプルの犯罪計画は巧みなもので、何より、きちんと身替わりを用意している。冒頭、妙な声色を使って、偽電話をかけるくだりなど、ロバート・カルプ万歳である。
- そして何より、コロンボが仕掛けるトリック。犯人が何としても守りたかったものが、自らの理論をパーフェクトに証明することで崩れていく。虚しさすら感じるロバート・カルプのラストカットは一見の価値あり。