怪獣万歳!

muho2’s diary

小説を書いて暮らしている大倉崇裕です。怪獣が3度の飯より好きです。政治的な発言は控えていましたが、保険証廃止の動きで頭が沸騰し、しばらく叫き続けていきます。自分自身大病もしたし、12年間親の介護もしました。その経験からも、保険証は廃止しちゃダメ。絶対!

長坂秀佳と「桜井警部補・哀愁の十字架」

  • 特捜最前線第508話「桜井警部補・哀愁の十字架」(脚本・長坂秀佳 監督・田中秀夫)を見て、あまりの面白さにふらふらとなる。

[ストーリー]
不動産会社社長殺しで逮捕された新宿東署の巡査上岡。だが、特命課の取り調べに対して、殺人以外についてはすべて黙秘を通す。社長より借りた金100万円は何に使ったのか。勾留中の尾崎が、犯人しか知り得ない事実をすべて知っていたのはなぜか。桜井の追及も、黙秘でかわされる。やがて、上岡に弁護士がついた。その弁護士こそ、桜井の父、桜井正規であった。巡査である上岡が雇える弁護士ではない。何者かが影で動いているのだ。
正規との接見後、上岡は完全黙秘に入る。弁護士の入れ知恵があったのだ。桜井は父と真っ向から対立。正規の依頼人を突き止めようと、その行動を監視する。
やがて、正規が新宿東署の署員26人と会っていたことが判明。彼らは皆、黒い噂のある悪徳警官ばかりであった。
新宿東署の署長ポストは、常々、キャリア組によって占められていた。副署長以下の役目は、署長に傷をつけず、次のポストに送りだすこと。そうした体質が、署内に不正をはびこらせているのだ。
かって正義の人と呼ばれた桜井正規が、なぜ、そうした人間に加担するのか。桜井には父の真意が判らない。
上岡の取り調べも遅々として進まない。彼はかって新宿東署の腐敗を糾弾すべく立ち上がった一人であった。しかし、左遷をネタに手を引かざるを得なかった。彼には母親と二人の子供がいる。
上岡は家族の面倒を見ることと引き換えに、殺人以外のことを黙秘しているのではないか。桜井は追及する。だが、上岡の漏らした言葉は……「(警官として務めた)12年間の正義では、何も買えなかった。だが今から、沈黙で家族の生活が買える」。上岡の意志の前に、橘、桜井も引き下がるよりない。
署長銀丈をトップとして、蔓延する構造腐敗。特命課はどう暴く? 桜井正規の真意はどこに?

  • 長兄が検事、次兄が弁護士、末弟桜井が刑事という、とんでもない一家。次兄を演じていた岸田森氏が故人となっていたのが悲しい。85点をとっても家に入れてもらえず、柿を盗んだらムチ打ち。桜井がスキャンダル刑事としてニューヨークから戻ってきたとき、この家族は、何を思っていたのだろう。
  • 当時の刑事ドラマで、これだけ重厚な構造腐敗を描いた例を他に知らない。キャリア組の横暴をしっかりおさえたうえで、お飾り副署長にまで言及するあたりは、さすがである。特命最後の事件が警察腐敗、このことだけでも、充分に燃える。
  • 元はといえば、橘が社長殺しの自白に疑問を持ったところから始まる事件。ハッと気づけば、警察をゆるがすものになっている。その転がし方は神業である。
  • 今回もまた、見事に女性が出てこない。恋だの涙だのを差し挟む余地のない、ハードでクールな展開。画面に映っているのは、背広を着た男だけだもんなぁ。
  • 海をバックに桜井と橘が語り合う。屈指の名シーンであります。ここを見るだけでも価値あり。
  • ああ、次回、最終回。それにしても、早く放送を再開してくれ。